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最高裁判所第一小法廷 昭和57年(あ)1818号 決定

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人中村厳、同三宅陽、同伊達秋雄、同小谷野三郎、同虎頭昭夫の上告趣意二の1は事実誤認の、同二の2は国税通則法一一条の解釈適用に関する単なる法令違反の、同二の3は事実誤認及び単なる法令違反の、同三は量刑不当の、各主張であり、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

なお、右上告趣意二の2に鑑み、職権をもって判断すると、記録によれば、被告人は、昭和五三年一二月二一日以降五回にわたり、医師法違反の被疑事実により、その経営にかかる診療所等の捜索を受け、自由診療報酬額を便宜記入していた診療録その他の帳簿書類を押収され、さらに昭和五四年二月八日右被疑事実により逮捕されて以降昭和五三年分所得税の確定申告・納期限である昭和五四年三月一五日当時まで、引き続き身体の拘束を受けていたものであるが、被告人自身は、事業所得の大部分を占める自由診療収入及び必要経費を、日々の診療活動を通じて十分に把握し得る立場にあり、診療録等の書類の押収そのものによって被告人の実際所得額の把握が特に困難になったわけではなく、また事業所得を源資とする仮名の預金通帳、国債その他の債券等の所在を明らかにして専門家に所得税の確定申告・納付手続を委任するなどの代替的手段によって、期限までに確定申告・納付手続を執ることが十分可能であったと認められるから、かかる事実関係の下においては、被告人の身体が拘束され、帳簿書類が押収されていた事実は、国税通則法一一条にいう「災害その他やむを得ない理由」にあたらないというべきであり、これと同趣旨の原判断は正当である。

被告人本人の上告趣意は、事実誤認若しくは単なる法令違反の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 和田誠一 裁判官 谷口正孝 裁判官 角田禮次郎 裁判官 矢口洪一 裁判官 高島益郎)

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